2026年を目途に、日本の労働基準法が約40年ぶりの「大改正」となる可能性が浮上しています。これは、厚生労働省の労働基準関係法制研究会がまとめた報告書などを基に、労働政策審議会で議論が進められているものです。
法改正の背景には、深刻化する人手不足と長時間労働、そしてテレワークや副業の増加といった働き方の多様化への対応、さらに労働者の健康と生活時間の確保という国際的な流れがあります。
現時点では法案として確定はしていませんが、企業が早急に準備すべき主要な検討事項は以下の通りです。
1. 長時間労働・休日・休息に関するルールの見直し
過重労働を防ぎ、働く人の健康を守るための規制強化が中心となります。
| 検討事項 | 主な改正の方向性(案) | 企業への想定される影響 |
| 連続勤務の上限規制 | 14日以上の連続勤務を禁止(変形休日制の特例を見直し) | シフト制、変形労働時間制を採用する企業はシフト管理の変更が必須。 |
| 勤務間インターバル制度 | 原則11時間以上の確保を義務化(現在は努力義務) | 終業から次の始業までの時間を確保するための勤務時間の見直しが必要。特に深夜勤務や残業が多い業種に影響大。 |
| 法定休日の特定義務化 | 法定休日を事前に特定することを義務化。 | 就業規則やシフト表での法定休日の明示が必須となり、割増賃金の計算が厳格化。 |
| 週44時間特例の廃止 | 従業員10人未満の商業・サービス業に認められている特例を廃止し、全ての事業場で週40時間労働を原則に統一。 | 中小の小売店、飲食店、美容院などでは、人員配置やシフトの抜本的な見直しと人件費増加の可能性。 |
2. 多様な働き方への対応と労働者保護の強化
テレワークや副業、フリーランスなど、新しい働き方に対応したルール作りが進められています。
- 「つながらない権利」に関するガイドラインの策定
- 退勤後や休日の業務連絡に関するルール(原則禁止など)を就業規則や社内規程に明記し、管理職への教育を強化することが求められます。
- 副業・兼業者の労働時間通算ルールの見直し
- 複数事業場で働く労働者の労働時間通算方法を簡素化・明確化し、労働者本人からの申告を厳格化するとともに、企業側の健康確保措置の責任を整理する方向で検討。
- 年次有給休暇の賃金算定方式の統一
- 有給休暇取得時の賃金を、原則「通常賃金方式」に統一する方向で検討。パートタイマーなど一部の労働者の待遇が改善される見込み。
3. その他、企業経営に関わる重要な検討事項
- 管理職・裁量労働の線引きの見直し
- 「名ばかり管理職」のリスクが高まる可能性があり、管理監督者や裁量労働制の適用範囲について実態に即した線引きがより重要になります。管理職の労働時間把握や健康確保措置の強化も議論されています。
📝 企業が今すぐ準備すべきこと
法改正が施行されると、多くの企業で就業規則、勤怠管理システム、賃金計算システムの改訂が必要となります。特に中小企業では、週44時間特例の廃止や連続勤務の上限規制などにより、人件費や人員配置に大きな影響が出る可能性があります。
- ✅ 就業規則の見直し:法定休日、連続勤務の上限、勤務間インターバル、つながらない権利に関する規定を整備する。
- ✅ 勤怠管理体制の強化:連勤チェック機能やインターバル自動チェック機能の導入、法定休日を特定したシフト運用への切り替え。
- ✅ 管理者への教育:新しいルールと健康配慮の重要性について、現場の管理職への教育を徹底する。
これらの改正は、労働者の健康確保と多様な働き方の促進を目指す、いわば「労務管理の大転換期」です。最新の動向を注視し、早めの準備を進めることが求められます。
中小企業が受ける主な影響
1. 週44時間特例の廃止による人件費の増加
- 影響の核: 従業員10人未満の商業(小売業など)やサービス業(飲食店、美容院など)に認められていた「法定労働時間:週44時間」の特例が廃止され、全ての事業場で週40時間が原則となります。
- 具体的な影響:
- 現在週40時間を超えて44時間まで働かせている場合、超過した4時間分はすべて時間外労働となり、25%以上の割増賃金の支払いが発生します。
- これにより、該当する中小企業では人件費が直接的に増加します。
- 特例を利用してきた企業は、週40時間以内に収めるための人員配置の見直しやシフトの再設計が不可避となります。
2. 連続勤務の上限規制(14日以上の禁止)
- 影響の核: 現在、変形休日制などを適用することで可能だった14日を超える連続勤務が原則禁止される方向で検討されています。
- 具体的な影響:
- 人手不足から連勤が常態化している、あるいは特定の時期に業務が集中するシフト制の企業(飲食、小売、サービス、建設など)に大きな影響が出ます。
- シフトの組み直しが必要になり、休日の確保のために新たな人員の採用やスポットワーカーの活用を検討せざるを得なくなる可能性があります。
3. 勤務間インターバル制度の義務化
- 影響の核: 終業から次の始業までに一定時間(原則11時間以上)の休息を確保する勤務間インターバル制度が、現行の努力義務から義務化される方向です。
- 具体的な影響:
- 特に深夜営業や交代制勤務がある業種(介護、医療、運送、ITサポートなど)で影響が大きくなります。
- 例えば、深夜まで残業した従業員は、翌日の始業時間を遅らせるなど、シフトや業務量の調整が必要になります。
- この制度の導入・運用には、就業規則の改定と、インターバル時間を自動でチェックする勤怠管理システムの改修が求められます。
4. 労務管理の厳格化・複雑化
- 影響の核: 法定休日の事前特定義務化や、副業者・管理監督者に関する労働時間管理のルール見直しにより、労務管理の実務がより厳格になります。
- 具体的な影響:
- 名ばかり管理職に対する残業代請求リスクが高まります。管理監督者に対しても健康確保措置として労働時間の把握がより厳格に求められる方向です。
- 就業規則や労働契約の全面的な見直しが必要となり、専門家(社会保険労務士など)への相談コストが発生する可能性があります。
- 適切な労務管理ができていない場合、労働基準監督署の是正勧告や、従業員からの残業代請求リスクが一気に高まります。
これらの改正は、中小企業にとっては「働き方」そのものを見直す「労務管理の大転換期」となります。法令違反のリスクを回避し、従業員の健康を守り、結果的に採用・定着率を高めるためにも、早めの情報収集と対応準備が不可欠です。


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